
若くして加工を任される高村元康さん
「職人」-。この言葉から筆者が連想するのはゴツゴツした手だったり、深いしわが刻み込まれた気難しそうな顔だったりするのだが、これは要するに、職人というのはかなり年配の人という固定観念に無意識のうちに支配されていた証なのだろう。ところが「山中湖 高村ハム」の高村元康さんは、こうした筆者の思い込みを簡単に蹴散らす、まだ27歳の、顔にあどけなさを残す温和な青年だった。
高村さんは、山梨県山中湖村で祖父の代から続く肉屋の三代目。父親で社長の照己さんが「安心して食べてもらえて自分が美味しいと思うハムを作りたい。そのためには良質な豚を育てることから始めなければ」と、本場ドイツの製造機械を導入する一方、養豚にも本格的に取り組み始めた時期に生まれた。「小学生のころから豚舎で遊び、中学生になるとハムやウインナソーセージ作りを手伝っていた」と言うように、ものごごろつくころから家業にどっぷりつかって成長してきた。

店内に並ぶ数々の賞状
大学卒業後、半年ほどハムやソーセージとは関係のない仕事をしていたが、実家の工場で製造の責任者を務めていた担当者が体調を崩し、これを機に家業を継ぐ決意をしたと言う。静岡県の肉屋さんで修行を積み、豚肉の「枝抜き」「骨抜き」などの技術と知識を身に着けて戻り、食肉加工製造部の主任となった。何度も本場ドイツへ研修に出かけ、腕に磨きをかけてきた高村さん。肩書きは主任だが、ハムやウインナソーセージの味や食感など、製造工程のすべてを任された、製品づくりの総責任者だ。
その確かな技術を証明するのが「ズーファ2008」「DLG2010」など本場ドイツの食肉コンテストでの数多くの入賞。「ズーファ」では荒びきウインナーやスモークハムなど金賞6個と銅賞1個、トロフィーも1個獲得するなど、出品したすべてが受賞。「DLG」でもベーコンとヴォックヴルストが金賞、ビールウインナーが銀賞、ミートローフが銅賞を受けるなど、その高い技術は折り紙つきだ。
高村ハムの製品はすべて、自社が富士山の麓・冨士河口湖町富士ヶ嶺地区に建設した豚舎で育てた豚を使う。現在、母豚300頭を含め3000頭を飼育するこの豚舎は最新の設備を備えており、ここから冬季は毎月20頭、夏季は30頭が山中湖の工場へ供給されている。これを、肉の仕分けから、塩やスパイスと肉をなじませる「塩漬」、腸詰め、スモーク、さらにスチームによる加熱処理を経て冷却まで、すべての作業は高村さんの緻密な判断と的確な指示で進められる。これを工場の従業員たちが切り分け、パック詰めして製品となる。スモークハムは1頭の豚から2つしかとれない「芯玉(しんたま)」と呼ばれる腿の裏の柔らかい部位を使うが、自社で丹精込めて育てた豚だけに味といい食感といい、まさに絶品だ。

丸一高村本店のハムやソーセージ
水は富士山の伏流水、スモークに使うサクラの木のチップは地元のフジザクラ-と地域の恵みを生かしたハムづくりに取り組む高村さん。製造するすべての製品に強い自負を持っているが、特に自慢の一品を尋ねると即座に「祖父から3代続くスモークハムですね」。祖父、父への敬愛と、受け継いだ味への自信が感じられた。
まだ27歳。将来の夢を聞くと「これからも自分がおいしいと思えるハム、ソーセージを作りたい」と謙虚に話してくれたが「消費者ニーズもますます多様化していくと思うが、それぞれの世代に受け入れられるおいしいハム、ウインナを作りたい。それと、これからはレシピ作りとその紹介にも力を入れていきたいですね」と微笑んだ。若きハム職人の長い挑戦は、始まったばかりだ。
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