
標高1,100mの広大な自然に囲まれた鶏舎
「森と水の農場」―。山梨県甲斐市北部、標高1000メートルのなだらかな斜面に「黒富士農場」がある。この地で養鶏業を営む向山茂徳代表が取り組んでいるのが「オーガニック(有機)農業」だ。その定義について向山さんは(1)安心でピュアな育て方(2)水とクリーンな大気を大切にする育て方(3)素材を大切にする食べ方(4)生きた土づくり(5)野生生物と伝統品種を守る(6)子どもたちの未来に残したい風景と文化を守る-を挙げる。
言葉で言うのはたやすいものの、大量生産・大量消費の今の時代に、実践するのは簡単ではないものばかりに思えるが、黒富士農場を訪れると不可能ではないという気がしてくるのは、まさに森と水に恵まれた環境があるからに違いない。12ヘクタールの広大な牧草地で五島とボリスブラウン計6万羽が「羽を伸ばして」暮らしている様子を目にすると、向山さんの目指すものが少しだが理解できたように感じた。「自然=免疫力」と考える向山さんは「ヒトもニワトリもストレスがないのが一番」。これは間違いないだろう。

向山 茂徳 社長
今、向山さんが取り組んでいるのが「BMW技術」だ。「地域の生態系の中で自然浄化作用の仕組み(循環系)に学び、その仕組みを人工的に再現する技術=生態系再生技術」と位置づける向山さんは、この技術を「森と水と生物(ニワトリ)の循環図」として実現している。「鉱物のミネラルとバクテリア、水」-。生態系が機能するために中核的な働きをするこれらの要素を生かすために整備された大規模なリサイクルシステムも、究極の目的は「ニワトリを自然の生態系の循環のなかで自然に育てる」ことに尽きる。そこから生まれる卵が大自然の恵みにあふれているのは言うまでもないだろう。
2008年に「有機JAS認証」を取得した向山さんは、山梨大学や山梨県環境科学研究所の永井正則副所長らと協力して有機農業の効果を科学的に追求する一方、県内で有機農業に取り組む人たちを結集して「有機農業連絡会議」を立ち上げ、昨年10月には初の「オーガニックフェスタ」を開催。シェフやパティシエが有機栽培の素材をその場で調理して参加者に振る舞うという新たな試みで、訪れた人たちのオーガニックへの関心を高めた。「このイベントで有機ネットワークの広がりを実感した。一般の人たちも有機が優れていることは知っている」と手応えを感じた向山さんだが「コストや技術など、まだ課題は多い。行政の支援が必要」と有機農業の将来を冷静に見通す。

濃厚なたまごの美味しさと、しっとりとした食感が人気のバウムクーヘン
スーパーなどで売られている卵に比べるとかなり高価な黒富士農場の卵だが、直売所では売り切れることも多いという。試しに「たまごかけご飯」で食べてみたが、高く盛り上がった黄身は混ぜるのが惜しいほど見事で、セットでも販売されている「たまごかけごはんのしょう油」でいただくと堪えられないコクが口いっぱいに広がった。この有機卵を使ったバウムクーヘンやシフォンケーキも、しっとり、まろやかな中にしっかりとした食感があると、消費者の人気を集めているのもうなずける。向山さんは「消費者は本物を求めている。その期待と信頼を裏切らないために有機農業を追求したい」と熱い思いを語る。
「欧州ではプロだから農薬は使わない。日本ではプロは農薬を使う。同じ農業だけれど、それほど違う。それは欧州では農業は文化だから」と言う向山さんだが、日本の農業をあきらめた訳ではない。「日本もいずれ必ずそうなる」と、2006年に成立した有機農業推進法にも期待する。「何といっても食は世界共通だから」-。
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