
横濱料理・牛鍋。100年以上の試行錯誤を経て熟成された伝統の味です。
牛肉食わねば開化不進奴(ひらけぬやつ)―明治3年に書かれた、仮名垣魯文の『安愚楽鍋』の一節です。
明治維新のはじめ頃、西洋の文物とともに肉食文化が日本にも広まり、日本独特の牛肉料理「牛鍋」が横浜で生まれました。いわゆる「すきやき」は肉をあぶってから砂糖やみりんで味付けをしつつ煮込みますが、牛鍋はあらかじめ砂糖やしょう油、みりんなどを混ぜた「割下」を肉や野菜とともに入れていっぺんに煮込みます。
「関東人は気が短いんですかね」と笑うのは、明治28年創業の老舗「荒井屋」の河本総支配人。けれどもこの「割下」が、各店の牛鍋の味を決めるといっても過言ではありません。

お話を伺った河本支配人。「大切なお客様を安心してお招きできるお店を目指しています」
割下を注ぎ、厳選されたお肉とネギや春菊、豆腐などを煮込むと、割下と脂の溶け合った匂いが広がり、お肉が食べごろ色に染まり、グツグツと鍋が音をたてはじめて…目の前でお肉がおいしくなっていくのを楽しめるのも牛鍋のいいところ。
県外からわざわざ訪れる人も多く、年に2回の「特別な宴席」や海外の方の接待に使われることも。なんと「お誕生日は荒井屋がいい!」という7歳の「ファン」もいるそうです。
荒井屋さんでは最高ランクの黒毛和牛を常に使用していますが、産地まで指定することはありません。そうすると値段が安定せず、かえって垣根が高くなってしまうのです。たしかに「時価」とかかかっているお店に入るのは勇気がいりますからね…。
「大事なのは秘伝の割下と肉を切る技術。代々の料理長に連綿と受け継がれています。今の料理長も30数年肉ばかり切っていますよ。こればかりは歴史が成せる技です」日本の牛は外国牛と比べて味が繊細なので、求められる技術も高いですが、だからこそ牛鍋のような丁寧に味を引き出す食べ方が一番おいしいというわけですね。

伊勢佐木町の通りを一本入ったところにある静かな店がまえ。
「ぜひ、お昼の定食を一度召し上がってみてください。1000円札一枚で食べられるすきやき定食がたくさんありますが、200円足していただければ、夜と同じ牛の肉を使った定食をお出してきますから」河本さんからは、お肉に対する絶対の自信と、お客様を決して裏切らないという熱いお話を伺いました。最上の肉、緻密な調理、伝統の割下…職人魂の集大成を、ぜひご賞味あれ!
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