
乾物屋の店頭を彩るいりこの数々
香川の知名度を飛躍的に高めたのは讃岐うどんである。そう思っている香川県民は少なくありません。抜群ののどごしを演出するこしのある麺はもちろんですが、讃岐うどんたらしめるのに欠かせないのが黄金色に輝く香り高き「だし」。その独特の香りとうま味を作り出しているのが「いりこ」です。遠回りしましたが、今回語りたいのがこのいりこ。お世辞にも華やかな食材とはいえませんが、なかなかどうして、家庭の食卓においても母の味、懐かしの味に欠かせない名脇役なのです。
そもそもいりことは、漁獲したばかりのカタクチイワシを海水か真水で釜揚げして、乾燥させた水産加工品。煮干し、あるいは煮干しイワシなどとも呼ばれます。ちりめんじゃこ(シラス)はこの稚魚を加工したもの。瀬戸内海はカタクチイワシの宝庫で、6月から10月にかけて漁獲の旬を迎えます。「よい煮干しが乾物屋に入荷したという情報が入ると、うどん屋は2俵3俵と買いこむ」とは「日本の食生活全集・聞き書香川の食事」(農山漁村文化協会出版)の記述。今も、讃岐うどん店のだしといえば、いりこがメジャーです。
いりこを使うことで決定的に異なるのが香り。慣れない人の舌にはとがった感じがするかもしれませんが、味をしめればこれほど滋味豊かなものはありません。だしをとるにしても、独特の苦味を和らげるために頭や内臓を取って身割りしてから使ったり、沸騰させずに取り出しますが、だしがらになったいりこごとみそ汁やうどんだしとして食べるディープな家庭や店もあります。不足しがちなカルシウムや鉄分、ビタミンDが豊富で、食べない手はありません。かくいう私は、幼いころに母親が下処理する隣で、いりこをついばんでいたもの。しばしば、食べ過ぎてたしなめられました。すくすくと背丈が伸びたのは、いりこ効果だと密かに考えています。

ううろこがあまり取れておらず、「へ」の字に曲がっているのが鮮度の高いうちに加工されたもの
だしがらのいりこは甘辛く煮付ければ佃煮になるし、下処理後に天ぷらにすれば酒のつまみやおやつとしても美味。燗(かん)をした日本酒に焼き網でじっくりと焼いたいりこを入れてふたをし、待つこと1~2分で極上のいりこ酒。つまみは1日ほどキムチに漬け込んだいりこ漬け。まあ、だまされたと思ってぜひお試しを。主役を食うほどの存在感ですから。
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