
「永代橋」から見た隅田川の風景。河口近くなので、海からの風が吹き、潮の香りが漂ってくる
東京生まれ、東京育ちの作家は数多く存在しますが、その中でも私が好きな作家といえば、まず一番に小池昌代さんが浮かんできます。1959年、東京・深川生まれの詩人です。私は長年、その情感あふれる詩に親しんできましたが、近年は小説も手がけており、小説においても多くのファンを獲得しています。
私が特に好きなのは、あるPR誌に連載されていた「青い、鮮烈な、いっぽんの水」というタイトルの長編小説。渋谷の高校に通う女子高校生、橡(くぬぎ)が主人公の初恋物語ですが、初恋の相手の家が隅田川沿いにあったことから、橡は足繁く浅草に通うようになります。橡にとって隅田川が見えてくるということは、もうじき恋人に会えるということ。いつしか、少女の中で隅田川の存在は大きくなっていきます。
この小説で印象深かったのは、詩人ならではの表現なのかもしれませんが、隅田川をひとりの男性に例えるなら、その一人称は、「ぼく」というより「おれ」という感じがする、というような内容が書いてあったこと。もしかしたら、橡の恋人のイメージは「隅田川」だったのかなと思ったりしましたが…。それはさておき、この小説を読んだあとに隅田川を眺めてみたら、広い川幅にたっぷりと水をたたえ悠々と流れる様に思わず「なるほど」と納得してしまいました。心が安らいでくる、父なる川とでもいおうか…。深川生まれの小池さんは、他の詩、小説、エッセイでも子どもの頃から身近な存在であった隅田川のことを繰り返し書いています。川から離れて暮らしていても、いつでも胸の中を流れている川なのだそうです。
今回、あらためて隅田川沿いを歩いてみたら、新しいランドマークが目に飛び込んできました。隅田川は東京スカイツリーの絶好のビュースポットでもあったのです。どこまで歩いても付いてくる建設途中の東京スカイツリーは“新しい東京”を予感させ、次第に心がうきうきと弾んできました。
涼を求めるこの季節、隅田川には、下町情緒を味わえるスポットや乗り物がいっぱい。川から、岸辺から、さまざまな楽しみ方ができますが、頭の中を空っぽにして、そのおおらかな流れをゆっくり眺めるのもまた格別です。東京に住む人、旅行などで訪れる人…どんな人が訪れても、そこでどんな思いをぶつけても、隅田川はその大きな胸でしっかりと受け止めてくれることでしょう。







