
筆者の横にそびえ立つ風弦
国道20号を甲府から長野県に向かって車を走らせる。韮崎市を過ぎると北杜市。それほど交通量が多いわけでもなく、うららかな春の昼下がりにはハンドルを握りながら、襲ってくる睡魔との闘いを余儀なくされる。
北杜市武川町で牧原の交差点を左折すると、行き交う車だけでなく歩いている人もほとんどいない田園風景が、ストレスにあふれた日常から開放してくれる。ふと原田泰治氏の版画が脳裏に浮かび、数年前、諏訪湖のほとりにある原田氏の美術館で握手した時の、氏の暖かい手の感触がよみがえったような気がした。

風弦の周りに並ぶ大きな石
だが、7、8分走ったところで睡魔も感傷も吹き飛んだ。右前方に天を突く異様な物体があることに気付いたが、とっさにそれが何なのか理解できず「???…」。車から降りて近づいてみると、どうやら人工物であるらしいことは分かったが、「誰が、何のために…?」。
改めて周囲を見回すと、足下には玉砂利が敷かれ、大きな石が規則的に配置されている中に、四角錐の「柱」が天を指してそびえている。しかも、70~80センチほどはありそうな「おむすび型」の物体をワイヤーでぶら下げて-。さらに、その「柱」は北に傾いている-。
これが「鉄のゲージツ家」として知られる“クマさん”こと篠原勝之さんがデザインして平成6年に設置されたオブジェ「風弦」だ。大武川(おおむかわ)と石空川(いしうとろがわ)の合流点のシンボルとして砂防フロンティア整備推進機構が寄贈した、と埋め込まれたプレートにある。鉄製で高さは30メートル。ワイヤーで吊された、鉄に包まれた石が、風に揺れて音を奏でることから名付けられたという。
どうやら、むかし英国の少年ジャックが牛と交換した豆が生長したのではないらしい。「風弦」が建つ場所は川に挟まれた公園風に整備されており、5メートルほど高くなっている広場には、かつて「建設族のドン」と言われた故金丸信氏の筆による「砂防豊郷之碑」-。現実に引き戻された気分。

風弦からワイヤーでぶら下がったおむすび型の物体
公園の少し上流で大武川が二手に分かれ、公園を過ぎたところで石空川と合流するため、一見すると3本の川が交わっているようにも見えて不思議な感じがする。家族で休日、弁当を持ってピクニックに水辺を訪れてみるのもいいかもしれない。下が玉砂利なのでハイヒールは厳禁だが。
ひとつ残念なのは“クマさん”が「風弦」で表現したかったものは何なのか、原稿を書いている今も分からないこと。分からないから「ゲージツ」なのかもしれないが。
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